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信州の静かな里山 長野県 鹿教湯温泉 斎藤ホテル

お知らせ

  • 【新レストラン連載コラム④】鹿のシャンデリア

    2023/11/17

    2022年11月に開業した「Restaurant渓」は、数年来考え続けてきた課題への私なりのひとつの答えであり、何よりお客様にとってより魅力的な鹿教湯温泉であってほしいという願いを込めています。

     

    今回は、レストランの雰囲気を決定づけるインテリアについて話したいと思います。

     

    照明が決まらない

    レストランの設計も大枠が固まり、細部の造作についての打ち合わせが始まっていました。その中でフロアーを照らす照明をどうするかが課題でした。

     

    照明はそのレストランの雰囲気を左右する重要なアイテムです。フロアーは天井が高くスペースが広いため、一般に販売されているものだとどうしても空間に負けてしまいがちでした。かといって特注すると予算に合いません。なかなか決定的なものが見つかりませんでした。

     

    そんななか設計士さんから、「社長が関わって自作の照明器具を作ってみてはどうでしょう」と提案がありました。もちろん最初は軽い冗談だろうと思っていました。中学・高校と美術の成績は特に秀でてなかったし、絵や彫刻とは全く無縁の生活を送っています。レストランの雰囲気を決定づける重要なアイテムをそんなに簡単に作れるはずがないと思っていました。

     

    ところが設計士さんは真剣に考えていたようで、デザインスケッチもつくっていました。そのデザインは、私自身が近所の雑木を数本伐採してきて、放射状に広げてつけるというものでした。不器用な私でもチェーンソウを使えて木材の伐採はできることを、設計士さんは知っていたのです。

     

    雑木は私が切ってくるとしても、雑木を照明に使うなんて見たこともないし、そんなことをしたら空間が野暮ったくなってしまうのではないかという不安がありましたが、他にアイデアもなく、とにかくやってみることになりました。

     

    里山の中、汗だくになりながら雑木を探す

    伐ってきた枝を並べて、設計士とともにシャンデリアのイメージをつくっているところ

    夏の暑いさなか、設計士さんと息子さん、私の3人で文殊堂の裏山で適当なサイズの木を探していました。里山といってもそれなりの斜面を登らなくてはならず、3人とも汗だくです。雑木はどこにでもたくさんあるけれど、デザインに合う太さや長さの木はなかなか見つかりません。

     

    それでも苦労しながら山を這いずりまわり、ケヤキ、マダモなど3種類の木を見つけて伐採し、適当なサイズにカットして山から降ろしてきました。木は1ヵ月ほど日陰で乾燥させて、組み立て作業にとりかかります。

     

    いよいよ雑木が組みあがって天井から吊るしたとき、はじめてそのデザインの意図に気が付きました。

     

    「これは鹿の角だ……」

     

    当然、設計士さんは最初からそれを意識してデザインをしていましたが、出来上がるまであえて私に説明しませんでした。恥ずかしいことに、私は最後までその意図に気が付かなかったのです。

     

    そうして、Restaurant渓の空間にぴったりとあったデザインの照明になりました。まさに目の前に広がる里山の風景と、鹿が教えてくれた湯という伝説、そして私たちが苦労して流した汗が一体となった、思い出ふかい照明となりました。

     

    →Vol.5は12/1公開予定です。お楽しみに!

  • 【新レストラン連載コラム③】歴史・風景とお客様とが一体化できる空間を目指す

    2023/11/03

    Restaurant渓の大きな窓には渓谷の景色が広がる。「Restaurant渓」は開業してちょうど1年を迎えます。ホテル内に食事処があるのに、なぜわざわざレストランを開業するのか? 数年来考え続けてきた課題への私なりの一つの答えであり、何よりお客様にとってより魅力的な鹿教湯温泉であってほしいという願いを込めています。

    vol.1ではレストラン開業のきっかけになったハワイ旅行、vol.2では「さいとう菓子工房」開業のヒントになった北海道の視察旅行について書きました。そこからレストラン開業に至るまでは、いくつかの“ピ―ス”を集める必要がありました。それは私が思う鹿教湯温泉の“強み”というピースで、それらを組み合わせることでここにしかないストーリーを紡ぎたいと思っています。vol.3からはそれらピースについお話していきましょう。

    今回は、鹿教湯の「歴史ある風景」についてお話したいと思います。

     

    聖と俗を表現した渓谷の風景

    病をいやす薬師如来が安置されている「薬師堂」。病気やケガの回復を願って鹿教湯温泉に来た湯治客の信仰を集めた。

    当ホテル近くにある「文殊堂」「五台橋」「薬師堂」の3つは鹿教湯温泉を象徴する建物です。Restaurant渓の窓からは、200年を超える風雪に耐えてきた歴史あるこの3つの建物が一望できます。

    さらに、溪谷を流れる内村川や「グリーンタフ」と呼ばれる少し緑かかった岩盤、そこを流れ落ちる滝、石塔やアーチのある石橋、もみじなどの広葉樹が適度に茂り、まるで有名な庭師がデザインした日本庭園のような景色が広がっています。

    そしてこの空間は、渓谷にかかる五台橋を境として、Restaurant渓側は「俗の世界」、五台橋から先の文殊堂や薬師堂は「聖なる世界」として宗教的に表現されています。少しスピリチュアルに表現すると、レストランから眺める世界は仏教的に言えば「おおいなる知恵の世界」なのです。

    真冬の1月には、鹿教湯恒例のイベントとなった「氷灯ろう夢祈願」が開催されます。このイベントは、一望できる景色のなかに氷の灯篭を200個ほど並べ、ろうそくの灯をともすというもの。白い雪を背景にろうそくのオレンジ色の灯がほのかに暗い空間のなかにゆらゆらと浮かび上がって、「おおいなる知恵の世界」がより幻想的な風情に彩られます。

     

    お客様が風景を体感できるように設計

    Restaurant渓から見た氷灯ろうの幻想的な様子。

    レストラン建設にあたって、この風景をただ眺めるだけでなく、さらに一歩踏み込んで、この風景と食事を楽しむお客様が一体となり風景を「体感」できるよう設計に工夫を凝らしました。食事フロアーの3面を大きな窓にしてまるで溪谷のテラス席に座っているようにし、小窓からは渓谷の風が吹き抜けるようにしました。レストランフロアー内のテーブルや椅子も景色と調和するように木を基調として、照明にも目の前の山から伐採してきた雑木を使っています。

    ありがたいことに、「なんとなく落ち着く」「ホッとする」といった感想をお客様から頂いています。
    歴史と風景とお客様が一体化し、心からくつろげ、さらに自然からエネルギーをもらってリフレッシュできるような空間となりました。

    食事だけでなく空間、そして時空を超えた歴史も味わえる、鹿教湯温泉ならではの体験ができるというわけです。

     

    *次回投稿は11/17(金)を予定しています。お楽しみに!

     

  • 【新レストラン連載コラム②】北海道で得たヒント

    2023/10/20

     

    忠別湖は北海道上川郡東川町と美瑛町との境にある。大雪山国立公園に隣接しており、風光明媚。


    斎藤ホテルでは2022年11月に新しく「Restaurant渓」を開業しました。ホテル内に食事処があるのに、なぜわざわざレストランを開業するのか? 数年来考え続けてきた課題への私なりの一つの答えであり、何よりお客様にとってより魅力的な鹿教湯温泉であってほしいという願いを込めています。

    vol.1ではレストラン開業のきっかけになったハワイ旅行について書きました。今回は一転北へ飛び、2015年の北海道視察旅行で得たヒントについて振り返ります。この時は、北海道の菓子店などを中心に視察しました。

    旭川にある菓子店「壺屋総本店」が2014年にオープンした体験型菓子店「壺屋 き花の杜」。

     

    なんとかなるかもしれない

    「鹿教湯温泉に宿泊するお客様に頼らないレストランをここに創る」ということが本当にできるのだろうか? 相変わらず絶対的な自信はありませんでしたが、なんとなくできるかもしれないと思わせた場所がありました。

     

    アップルパイや洋生菓子・焼き菓子を販売している「さいとう菓子工房」の事業計画を立てる際に視察で訪れた北海道の東川町です。東川町は旭川から東へ車で30分ほどのところにあり、広大な北海道の中央部に位置しています。

     

    その東川町に「北の住まい設計社」という会社があります。町の中心からさらに8kmほど離れた、広大な畑のはずれにあるこんもりとした森の中にあり、家具店やカフェなどを営んでいます。

     

    周辺には住宅が全く見当たらない場所で、さらに風光明媚というよりもうら寂しい田舎のはずれで交通の便も不便なところです。私たちが訪れたのは夏で、ひっきりなしに人が訪れていました。わざわざ家具を買ったりカフェに寄ったりするために、車でおそらく30分以上かけてやってきた人たちです。

     

    明らかに交通条件の悪いところでも成り立っていて、むしろそういった条件がプラスにはたらいている事例を実際に目の当たりにしました。当時の私には北の住まい設計社の事業の魅力がよく分かりませんでした。

     

    しかしその後、私なりに考えて、「ストーリー性」がキーワードだと感じるようになりました。地元でとれる素材を加工して価値を高め、それを産地で販売するということはすでにどこでもやられていたことですが、北の住まい設計社は北海道が持つイメージと独自のセンスで、お客様がわざわざ来たくなるストーリーを感じさせているところが新しいと感じました。

    「北の住まい設計社」の敷地にて。

     

    「さいとう菓子工房」を開業して見えてきた事実

     

    それでも「本当にお客様が足を運んでくださるだろうか」と半信半疑でいましたが、いざ「さいとう菓子工房」を開業してみると、自信を持ってすすめられるおいしいアップルパイが開発できたこともあって、上田市や松本市から車で30分かけて買いに来てくれる方が数多くいました。

     

    このことから、「魅力ある商品があれば、わざわざ遠くから買いにきてくれる」という単純な事実を知ることになりました。

     

    同時に、交通の便が悪いとか、立地が不利だとか、鹿教湯温泉は知名度が低いといったことはまったく関係なく、言い訳に過ぎないという事実にも向きあうこととなりました。

     

    インターネットでなんでも買える時代と逆行しているようですが、日常雑貨など必要な商品が簡単に買えるようになり、それによって生まれた時間を「わざわざ時間を使って買い物や体験をする」ことに充てることに人々は価値を感じるようになっているのかもしれません。

     

    とするならば、インターネットでは買えないもの――例えば人とのふれあいや、そこに行かないと見られない景色、特別感のある雰囲気の中でする食事といった体験がより価値を持つことになります。そういった価値を提供できれば、私たちが考えているようなレストランは成り立つのではないかと考えました。

     

    そうとなれば、ここ鹿教湯温泉にはたくさんの強みがあることに気が付きます。

     

     

  • 【新レストラン連載コラム①】新しい湯治のスタイルはハワイに学べ

    2023/10/06

    斎藤ホテルは2022年11月に新レストラン「Restaurant渓」を開業しました。
    ホテル内に食事処があるのに、なぜわざわざレストランを開業するのか?
    それは数年来考え続けてきた課題への私なりのひとつの答えであり、何よりお客様にとってより魅力的な鹿教湯温泉であってほしいという願いが込められています。

    レストラン開業のきっかけは、50歳を過ぎて初めて行ったハワイでした。今回は、その時のことを振り返ってみます。

    まったく期待していなかったハワイ旅行

    4年ほど前、とある旅行会社の紹介でハワイ旅行へ行くことになりました。いわゆるお付き合い旅行です。私はいわゆるパッケージツアーというものがあまり好きではなく、どちらかというと知名度もあまりない土地を一人で歩きまわるような、そんなスタイルの旅行が好きなタイプです。

    しかも、行き先が「ハワイ」。私の中でのハワイのイメージは一言でいうと「手垢のついたリゾート」。行き先としてはときめきもなく、どちらかというとあまり気乗りはしない旅行です。

    では、実際にどうだったかというと、観光に携わるものとして「ハワイ」を知らなかったことを深く恥じた次第です。もっと若いうちに行っておくべきでした。いや、もしかしたら、50代になって時間的にも金銭的にも余裕を持った旅行ができるようになったからこそ、ハワイの魅力に気が付いたのかもしれません。若くガツガツしていた20代ではその魅力が理解できなかったと思います。

    宿泊施設のクオリティーとか、オプションツアーの豊富さとか、年間を通して温暖な気候とか、交通システムとか、ショッピングの楽しみとか、もういろいろあるけれども、私が一番感心したことは、滞在していて一度も食事に飽きることがなかったということです。

    1週間の滞在でも飽きない食のバリエーション

    一言で言うと「食事のバリエーションが広い」ということです。書いてみるとどうしようもなく陳腐で当たり前のことですが、これから鹿教湯温泉を新しい湯治場として発展させていく上では、とても重要な要素だとしみじみ実感しました。

    ほぼ1週間滞在していましたが、食事に飽きたり、物足りなかったりしたことはただの一度もありませんでした。多数のレストランや様々なスタイルの食事処が存在して、選択の幅が広いのです。しかも、それがコンパクトな街の中にまとまっていて、アクセスしやすい。しかも、レストランごとのクオリティーは高い。

    あるいはかつて旅行で滞在したバンコクとか上海といった都市観光ではその機能はあたりまえの姿ですが、一つの完結したリゾートとして実現しているのは、日本のリゾート地を見まわしても存在しないのではないかと思います。

    そして、これから鹿教湯温泉で新しい湯治文化を創っていくとすれば、まさにこの「食事が選べる」ということが重要なポイントになっていくと深く認識しました。

    じっくり滞在する湯治場だから「食」の選択肢がほしい

    湯治の効果を得るためには、すくなくとも1週間、長ければ1か月ほど温泉地で滞在してほしいのですが、その間、お客様が一番こまるのが日々の食事です。

    半世紀前の鹿教湯温泉ではこの課題を「自炊」というシステムで解決していました。各自が野菜やコメを持ち寄って各々自分の好きなものを料理して食べるというやり方です。ひとつの解ではありますが、今の人たちにはあまり受け入れられないかもしれません。せっかく休みにきているのに、毎日料理を作ることは意外と負担になるものです。

    では、滞在していて食事の選択肢を広げるにはどうしたら良いのか。その解はとっても明確で、鹿教湯温泉のなかにいろいろな飲食店――たとえば和食店、洋食店、寿司屋、カレー屋、居酒屋、焼肉店があればよいのです。しかもそれぞれクオリティーが高い。簡単ですね。

    でも、これを実現するためには最初のジレンマを解決しなくてはいけません。お客様がいなければ食事処は成り立たないし、食事処がなければ滞在のお客様は来ない。「鶏が先か、卵が先か」というジレンマです。

    温泉の他にも強い魅力がある鹿教湯に

    今の鹿教湯温泉では宿泊されるお客様のほとんどは旅館の中で食事をとるスタイルで、夕食を外部のレストランで食べる方は少ないのです。お客様のいない鹿教湯温泉で寿司屋や居酒屋は成り立ちません。旅館の経営者からすれば、食事処もないのに夕食がいらない宿泊だけのお客様を受けることはできないし、飲食店からするとお客様がいないところにお店は開けないということです。

    では、どうしたらこのジレンマから抜け出ることができるのか?

    数年間、自分の中で問答した結果、「鹿教湯温泉に宿泊するお客様だけに頼らないレストランを鹿教湯温泉に創る」という結論に至りました。鹿教湯温泉に旅館外で食事する湯治客はいないわけだから、最初の一歩目は、レストラン単体の魅力でお客様をよべるものにすれば良いと考えました。

    いや、言うのは簡単。こんな山の中のレストランだけでお客を呼ぶことが現実にできるのだろうか。新レストラン開業ための議論は、そこから始まりました。

    →Vol.2は10/20公開予定です。お楽しみに!

  • 『信州の恵みが織りなすワインと食の旅』マンズワイン小諸ワイナリー&Restaurant溪メーカーズディナーのご案内

    2023/08/10