Restaurant渓の大きな窓には渓谷の景色が広がる。「Restaurant渓」は開業してちょうど1年を迎えます。ホテル内に食事処があるのに、なぜわざわざレストランを開業するのか? 数年来考え続けてきた課題への私なりの一つの答えであり、何よりお客様にとってより魅力的な鹿教湯温泉であってほしいという願いを込めています。
vol.1ではレストラン開業のきっかけになったハワイ旅行、vol.2では「さいとう菓子工房」開業のヒントになった北海道の視察旅行について書きました。そこからレストラン開業に至るまでは、いくつかの“ピ―ス”を集める必要がありました。それは私が思う鹿教湯温泉の“強み”というピースで、それらを組み合わせることでここにしかないストーリーを紡ぎたいと思っています。vol.3からはそれらピースについお話していきましょう。
今回は、鹿教湯の「歴史ある風景」についてお話したいと思います。
聖と俗を表現した渓谷の風景

病をいやす薬師如来が安置されている「薬師堂」。病気やケガの回復を願って鹿教湯温泉に来た湯治客の信仰を集めた。
当ホテル近くにある「文殊堂」「五台橋」「薬師堂」の3つは鹿教湯温泉を象徴する建物です。Restaurant渓の窓からは、200年を超える風雪に耐えてきた歴史あるこの3つの建物が一望できます。
さらに、溪谷を流れる内村川や「グリーンタフ」と呼ばれる少し緑かかった岩盤、そこを流れ落ちる滝、石塔やアーチのある石橋、もみじなどの広葉樹が適度に茂り、まるで有名な庭師がデザインした日本庭園のような景色が広がっています。
そしてこの空間は、渓谷にかかる五台橋を境として、Restaurant渓側は「俗の世界」、五台橋から先の文殊堂や薬師堂は「聖なる世界」として宗教的に表現されています。少しスピリチュアルに表現すると、レストランから眺める世界は仏教的に言えば「おおいなる知恵の世界」なのです。
真冬の1月には、鹿教湯恒例のイベントとなった「氷灯ろう夢祈願」が開催されます。このイベントは、一望できる景色のなかに氷の灯篭を200個ほど並べ、ろうそくの灯をともすというもの。白い雪を背景にろうそくのオレンジ色の灯がほのかに暗い空間のなかにゆらゆらと浮かび上がって、「おおいなる知恵の世界」がより幻想的な風情に彩られます。
お客様が風景を体感できるように設計

Restaurant渓から見た氷灯ろうの幻想的な様子。
レストラン建設にあたって、この風景をただ眺めるだけでなく、さらに一歩踏み込んで、この風景と食事を楽しむお客様が一体となり風景を「体感」できるよう設計に工夫を凝らしました。食事フロアーの3面を大きな窓にしてまるで溪谷のテラス席に座っているようにし、小窓からは渓谷の風が吹き抜けるようにしました。レストランフロアー内のテーブルや椅子も景色と調和するように木を基調として、照明にも目の前の山から伐採してきた雑木を使っています。
ありがたいことに、「なんとなく落ち着く」「ホッとする」といった感想をお客様から頂いています。
歴史と風景とお客様が一体化し、心からくつろげ、さらに自然からエネルギーをもらってリフレッシュできるような空間となりました。
食事だけでなく空間、そして時空を超えた歴史も味わえる、鹿教湯温泉ならではの体験ができるというわけです。
*次回投稿は11/17(金)を予定しています。お楽しみに!