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信州の静かな里山 長野県 鹿教湯温泉 斎藤ホテル

お知らせ

月: 2023年10月

  • 【新レストラン連載コラム②】北海道で得たヒント

    2023/10/20

     

    忠別湖は北海道上川郡東川町と美瑛町との境にある。大雪山国立公園に隣接しており、風光明媚。


    斎藤ホテルでは2022年11月に新しく「Restaurant渓」を開業しました。ホテル内に食事処があるのに、なぜわざわざレストランを開業するのか? 数年来考え続けてきた課題への私なりの一つの答えであり、何よりお客様にとってより魅力的な鹿教湯温泉であってほしいという願いを込めています。

    vol.1ではレストラン開業のきっかけになったハワイ旅行について書きました。今回は一転北へ飛び、2015年の北海道視察旅行で得たヒントについて振り返ります。この時は、北海道の菓子店などを中心に視察しました。

    旭川にある菓子店「壺屋総本店」が2014年にオープンした体験型菓子店「壺屋 き花の杜」。

     

    なんとかなるかもしれない

    「鹿教湯温泉に宿泊するお客様に頼らないレストランをここに創る」ということが本当にできるのだろうか? 相変わらず絶対的な自信はありませんでしたが、なんとなくできるかもしれないと思わせた場所がありました。

     

    アップルパイや洋生菓子・焼き菓子を販売している「さいとう菓子工房」の事業計画を立てる際に視察で訪れた北海道の東川町です。東川町は旭川から東へ車で30分ほどのところにあり、広大な北海道の中央部に位置しています。

     

    その東川町に「北の住まい設計社」という会社があります。町の中心からさらに8kmほど離れた、広大な畑のはずれにあるこんもりとした森の中にあり、家具店やカフェなどを営んでいます。

     

    周辺には住宅が全く見当たらない場所で、さらに風光明媚というよりもうら寂しい田舎のはずれで交通の便も不便なところです。私たちが訪れたのは夏で、ひっきりなしに人が訪れていました。わざわざ家具を買ったりカフェに寄ったりするために、車でおそらく30分以上かけてやってきた人たちです。

     

    明らかに交通条件の悪いところでも成り立っていて、むしろそういった条件がプラスにはたらいている事例を実際に目の当たりにしました。当時の私には北の住まい設計社の事業の魅力がよく分かりませんでした。

     

    しかしその後、私なりに考えて、「ストーリー性」がキーワードだと感じるようになりました。地元でとれる素材を加工して価値を高め、それを産地で販売するということはすでにどこでもやられていたことですが、北の住まい設計社は北海道が持つイメージと独自のセンスで、お客様がわざわざ来たくなるストーリーを感じさせているところが新しいと感じました。

    「北の住まい設計社」の敷地にて。

     

    「さいとう菓子工房」を開業して見えてきた事実

     

    それでも「本当にお客様が足を運んでくださるだろうか」と半信半疑でいましたが、いざ「さいとう菓子工房」を開業してみると、自信を持ってすすめられるおいしいアップルパイが開発できたこともあって、上田市や松本市から車で30分かけて買いに来てくれる方が数多くいました。

     

    このことから、「魅力ある商品があれば、わざわざ遠くから買いにきてくれる」という単純な事実を知ることになりました。

     

    同時に、交通の便が悪いとか、立地が不利だとか、鹿教湯温泉は知名度が低いといったことはまったく関係なく、言い訳に過ぎないという事実にも向きあうこととなりました。

     

    インターネットでなんでも買える時代と逆行しているようですが、日常雑貨など必要な商品が簡単に買えるようになり、それによって生まれた時間を「わざわざ時間を使って買い物や体験をする」ことに充てることに人々は価値を感じるようになっているのかもしれません。

     

    とするならば、インターネットでは買えないもの――例えば人とのふれあいや、そこに行かないと見られない景色、特別感のある雰囲気の中でする食事といった体験がより価値を持つことになります。そういった価値を提供できれば、私たちが考えているようなレストランは成り立つのではないかと考えました。

     

    そうとなれば、ここ鹿教湯温泉にはたくさんの強みがあることに気が付きます。

     

     

  • 【新レストラン連載コラム①】新しい湯治のスタイルはハワイに学べ

    2023/10/06

    斎藤ホテルは2022年11月に新レストラン「Restaurant渓」を開業しました。
    ホテル内に食事処があるのに、なぜわざわざレストランを開業するのか?
    それは数年来考え続けてきた課題への私なりのひとつの答えであり、何よりお客様にとってより魅力的な鹿教湯温泉であってほしいという願いが込められています。

    レストラン開業のきっかけは、50歳を過ぎて初めて行ったハワイでした。今回は、その時のことを振り返ってみます。

    まったく期待していなかったハワイ旅行

    4年ほど前、とある旅行会社の紹介でハワイ旅行へ行くことになりました。いわゆるお付き合い旅行です。私はいわゆるパッケージツアーというものがあまり好きではなく、どちらかというと知名度もあまりない土地を一人で歩きまわるような、そんなスタイルの旅行が好きなタイプです。

    しかも、行き先が「ハワイ」。私の中でのハワイのイメージは一言でいうと「手垢のついたリゾート」。行き先としてはときめきもなく、どちらかというとあまり気乗りはしない旅行です。

    では、実際にどうだったかというと、観光に携わるものとして「ハワイ」を知らなかったことを深く恥じた次第です。もっと若いうちに行っておくべきでした。いや、もしかしたら、50代になって時間的にも金銭的にも余裕を持った旅行ができるようになったからこそ、ハワイの魅力に気が付いたのかもしれません。若くガツガツしていた20代ではその魅力が理解できなかったと思います。

    宿泊施設のクオリティーとか、オプションツアーの豊富さとか、年間を通して温暖な気候とか、交通システムとか、ショッピングの楽しみとか、もういろいろあるけれども、私が一番感心したことは、滞在していて一度も食事に飽きることがなかったということです。

    1週間の滞在でも飽きない食のバリエーション

    一言で言うと「食事のバリエーションが広い」ということです。書いてみるとどうしようもなく陳腐で当たり前のことですが、これから鹿教湯温泉を新しい湯治場として発展させていく上では、とても重要な要素だとしみじみ実感しました。

    ほぼ1週間滞在していましたが、食事に飽きたり、物足りなかったりしたことはただの一度もありませんでした。多数のレストランや様々なスタイルの食事処が存在して、選択の幅が広いのです。しかも、それがコンパクトな街の中にまとまっていて、アクセスしやすい。しかも、レストランごとのクオリティーは高い。

    あるいはかつて旅行で滞在したバンコクとか上海といった都市観光ではその機能はあたりまえの姿ですが、一つの完結したリゾートとして実現しているのは、日本のリゾート地を見まわしても存在しないのではないかと思います。

    そして、これから鹿教湯温泉で新しい湯治文化を創っていくとすれば、まさにこの「食事が選べる」ということが重要なポイントになっていくと深く認識しました。

    じっくり滞在する湯治場だから「食」の選択肢がほしい

    湯治の効果を得るためには、すくなくとも1週間、長ければ1か月ほど温泉地で滞在してほしいのですが、その間、お客様が一番こまるのが日々の食事です。

    半世紀前の鹿教湯温泉ではこの課題を「自炊」というシステムで解決していました。各自が野菜やコメを持ち寄って各々自分の好きなものを料理して食べるというやり方です。ひとつの解ではありますが、今の人たちにはあまり受け入れられないかもしれません。せっかく休みにきているのに、毎日料理を作ることは意外と負担になるものです。

    では、滞在していて食事の選択肢を広げるにはどうしたら良いのか。その解はとっても明確で、鹿教湯温泉のなかにいろいろな飲食店――たとえば和食店、洋食店、寿司屋、カレー屋、居酒屋、焼肉店があればよいのです。しかもそれぞれクオリティーが高い。簡単ですね。

    でも、これを実現するためには最初のジレンマを解決しなくてはいけません。お客様がいなければ食事処は成り立たないし、食事処がなければ滞在のお客様は来ない。「鶏が先か、卵が先か」というジレンマです。

    温泉の他にも強い魅力がある鹿教湯に

    今の鹿教湯温泉では宿泊されるお客様のほとんどは旅館の中で食事をとるスタイルで、夕食を外部のレストランで食べる方は少ないのです。お客様のいない鹿教湯温泉で寿司屋や居酒屋は成り立ちません。旅館の経営者からすれば、食事処もないのに夕食がいらない宿泊だけのお客様を受けることはできないし、飲食店からするとお客様がいないところにお店は開けないということです。

    では、どうしたらこのジレンマから抜け出ることができるのか?

    数年間、自分の中で問答した結果、「鹿教湯温泉に宿泊するお客様だけに頼らないレストランを鹿教湯温泉に創る」という結論に至りました。鹿教湯温泉に旅館外で食事する湯治客はいないわけだから、最初の一歩目は、レストラン単体の魅力でお客様をよべるものにすれば良いと考えました。

    いや、言うのは簡単。こんな山の中のレストランだけでお客を呼ぶことが現実にできるのだろうか。新レストラン開業ための議論は、そこから始まりました。

    →Vol.2は10/20公開予定です。お楽しみに!