忠別湖は北海道上川郡東川町と美瑛町との境にある。大雪山国立公園に隣接しており、風光明媚。
斎藤ホテルでは2022年11月に新しく「Restaurant渓」を開業しました。ホテル内に食事処があるのに、なぜわざわざレストランを開業するのか? 数年来考え続けてきた課題への私なりの一つの答えであり、何よりお客様にとってより魅力的な鹿教湯温泉であってほしいという願いを込めています。
vol.1ではレストラン開業のきっかけになったハワイ旅行について書きました。今回は一転北へ飛び、2015年の北海道視察旅行で得たヒントについて振り返ります。この時は、北海道の菓子店などを中心に視察しました。
なんとかなるかもしれない
「鹿教湯温泉に宿泊するお客様に頼らないレストランをここに創る」ということが本当にできるのだろうか? 相変わらず絶対的な自信はありませんでしたが、なんとなくできるかもしれないと思わせた場所がありました。
アップルパイや洋生菓子・焼き菓子を販売している「さいとう菓子工房」の事業計画を立てる際に視察で訪れた北海道の東川町です。東川町は旭川から東へ車で30分ほどのところにあり、広大な北海道の中央部に位置しています。
その東川町に「北の住まい設計社」という会社があります。町の中心からさらに8kmほど離れた、広大な畑のはずれにあるこんもりとした森の中にあり、家具店やカフェなどを営んでいます。
周辺には住宅が全く見当たらない場所で、さらに風光明媚というよりもうら寂しい田舎のはずれで交通の便も不便なところです。私たちが訪れたのは夏で、ひっきりなしに人が訪れていました。わざわざ家具を買ったりカフェに寄ったりするために、車でおそらく30分以上かけてやってきた人たちです。
明らかに交通条件の悪いところでも成り立っていて、むしろそういった条件がプラスにはたらいている事例を実際に目の当たりにしました。当時の私には北の住まい設計社の事業の魅力がよく分かりませんでした。
しかしその後、私なりに考えて、「ストーリー性」がキーワードだと感じるようになりました。地元でとれる素材を加工して価値を高め、それを産地で販売するということはすでにどこでもやられていたことですが、北の住まい設計社は北海道が持つイメージと独自のセンスで、お客様がわざわざ来たくなるストーリーを感じさせているところが新しいと感じました。
「さいとう菓子工房」を開業して見えてきた事実
それでも「本当にお客様が足を運んでくださるだろうか」と半信半疑でいましたが、いざ「さいとう菓子工房」を開業してみると、自信を持ってすすめられるおいしいアップルパイが開発できたこともあって、上田市や松本市から車で30分かけて買いに来てくれる方が数多くいました。
このことから、「魅力ある商品があれば、わざわざ遠くから買いにきてくれる」という単純な事実を知ることになりました。
同時に、交通の便が悪いとか、立地が不利だとか、鹿教湯温泉は知名度が低いといったことはまったく関係なく、言い訳に過ぎないという事実にも向きあうこととなりました。
インターネットでなんでも買える時代と逆行しているようですが、日常雑貨など必要な商品が簡単に買えるようになり、それによって生まれた時間を「わざわざ時間を使って買い物や体験をする」ことに充てることに人々は価値を感じるようになっているのかもしれません。
とするならば、インターネットでは買えないもの――例えば人とのふれあいや、そこに行かないと見られない景色、特別感のある雰囲気の中でする食事といった体験がより価値を持つことになります。そういった価値を提供できれば、私たちが考えているようなレストランは成り立つのではないかと考えました。
そうとなれば、ここ鹿教湯温泉にはたくさんの強みがあることに気が付きます。