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信州の静かな里山 長野県 鹿教湯温泉 斎藤ホテル

お知らせ

【新レストラン連載コラム⑬】ふたりのシェフ

2024/09/09

「Restaurant溪」をオープンして3年が経ちました。多くのお客様に足を運んでいただいており、感謝の念に堪えません。そのRestaurant溪について、みなさまから頂戴する質問でいちばん多いのは「シェフはどなたですか?」というものです。

 

地元と斎藤ホテルを知り尽くしたふたりのシェフ

笹川高人シェフ

斎藤隆弘シェフ

 

Restaurant溪のシェフは笹川高人(64歳)と斎藤隆弘(40歳)の2名です。

 

笹川は斎藤ホテルがオープンした時から厨房のリーダーを務め、現在のような斎藤ホテルのブッフェ・レストランを創ってきた人物です。新潟県と長野県の県境に位置する妙高の出身で、旅館業を営む家庭で育ちました。社会人になって洋食の料理人として研鑽を積み、斎藤ホテルに入社。現在は和・洋・中華すべての料理をこなしながら料理長として活躍しています。

 

当ホテルは連泊される方が珍しくないので、お客様を飽きさせないためにメニューが毎日変わります。数多くのメニューを考案し、仕入れ、調理をしていくという、さまざまな要素が絡みあう複雑な過程を回していくには、かなりの経験が必要になります。そういった日々の業務に加え、後輩の育成も大事な仕事です。並大抵の人では務まりません。品質に厳しく、頑固で、それでいて思いやりとリーダシップを持った、絵にかいたような職人さんが笹川です。

 

斎藤は、斎藤ホテルに入社して笹川のもとで修業を重ねてきました(私と同じ姓ですが親戚ではありません) 。地元で生まれ、地元で育った生粋の“鹿教湯人” の斎藤は、地元の食文化をそのまま背負ってきた調理人です。穏やかでいながらチャレンジ精神が旺盛で、新しい料理づくりに対する意欲には目をみはります。地元の人的ネットワークがあり、野菜の生産者や食材の情報をいち早く仕入れて、メニューに反映するセンスの持ち主でもあります。

 

自分たちの強みは何だろう?

Restaurant溪のようなレストランは、ある程度修業を積んだ名のあるシェフを召喚し、そのシェフを中心として構成するのが定石です。

 

笹川と斎藤は、技術力はあるものの名のあるレストランで修業してきたわけではありません。なので、サービスや企画担当を含めたチーム全体で戦うことにしました。斎藤ホテルの経営理念である「もんじゅ」の考え方です。もんじゅ、すなわち文殊は智慧をつかさどる菩薩。鹿教湯温泉にある文殊堂にちなんでいます。地域の文化を大切にするとともに、智慧を出し合って世の中の幸せを形作っていくという考え方です。

 

都内のレストランと戦うためには、自分たちの強みをしっかりと認識して、それを武器としてチーム力を高めていくのが私たちにできること――そう心を定めました。

 

強みはなんといっても「信州に居ること」。すなわち食材の生産者にいちばん近い存在であるということです。食材をすぐに入手できるだけでなく、生産者の声や情報もいち早くキャッチできます。

 

たとえばRestaurant溪のこだわりのひとつである「ジャスト・イン・タイム」。朝どれの野菜をその日に提供することをモットーにしています。都内の三ツ星レストランでもなかなか実現が大変なことですが、ここではわりと簡単にできます。
そして、そういった情報を集めるには、生産者や卸などとの日頃のネットワークやコミュニケーションが大切で、その点は地元で生活する者の大きな強みとなります。

 

チームの力で新しい挑戦に踏み出す

試食会の様子。真剣勝負にピリッとした空気が流れる。

笹川と斎藤は、既存店での経験こそ少ないものの、毎日変化するブッフェで鍛えられているので、こだわりなく柔軟にメニューを考えることができます。しかし、コース料理のメニュー開発の経験はいかんせん少ない。

 

そこで、外部の力を借りることとしました。都内の開発チームにお願いして1年間、徹底してメニューを研究してきました。県内で食材を探して吟味し、調理してコースとして組み立てていく。そして、定期的に開発チームで試食をして方向性を確認していく。この繰り返しです。

 

素材が良いのは当たり前。調理でその価値をいかに高めていくか? 盛り付けはミリ単位で修正。器を吟味し、体験の要素を付加していく。当然、ワインとの相性も確認していきます。

この試食会は、斎藤ホテルとしては珍しく、ヒリヒリとした緊張感のなかで進められました。試食チームには若手もいます。ベテランの笹川や斎藤の料理に意見をすることはなかなか勇気がいることですが、めげずにバチバチと料理の感想や意見をぶつけます。外部アドバイザーからも遠慮のない意見が出て、本当に火花が散っているようでした。緊張感で胃がキリキリするような場です。

 

悩み抜いてたどり着いた境地

 

お客様に出して大丈夫だと心の底から確信したのは、ぎりぎり最後の試食会でした。それまで試行錯誤を繰り返したものの完成にほど遠く、もう本当にどうなることかと思い悩みました。皆で「これはいける‼」と確信したとき、それまでの道のりの険しさ、果てしなさが思い出され、チーム全体で感極まってしまうシーンもありました。料理の内容、構成、味、ワインとの相性など、これ以上のもなはないと自信が持てる仕上がりで、開業を迎えることとなりました。

 

オープン3年目の現在も、笹川・斎藤の創意工夫により、さらに信州を楽しんでもらえるようなメニューに磨きがかかっています。Restaurant溪でお食事をされたら、厨房をそっと覗いてみてください。2人のシェフが心を込めて料理している姿が見られると思います。