連載第9回目は、「Restaurant渓」の料理を盛り込む「器」についてお話します。
新レストラン開業を進めていく中で、「『信州のおもてなし』コンセプトにレストランをオープンするにあたって、食材を信州産にこだわるなら、器にも信州産を使いたい」という話が出てきました。この話をきっかけに、作家を探していくことになりました。そして出会ったのが、2人の作家さんと1組の作家さんでした。
出会いはクラフトマーケット
まずご紹介したいのは、諏訪に工房を構える立川玄八さんです。
立川玄八さんの白いリム付フラットプレートは、シンプルな佇まいでありながら、強い存在感を放ちます。今回レストランで使用しているのは灰釉の淡い風合いと、立たせた縁のシャープさのバランスが美しい丸皿です。
立川さんの作品との出会いはクラフトフェアのマーケットでした。数あるお皿のなかから立川さんの作品が目に留まり、名刺を頂くと諏訪に工房を構えていらっしゃるとのこと。そこでRestaurant溪のシェフである斎藤と責任者の岡崎、企画広報の西澤で工房を訪ねることとなりました。
車でおよそ1時間と少し。メイン通りを少し入った、古民家を改装したカフェや神社、蔵などが並ぶ場所に立川さんの工房「石の如く」がありました。
中に入ると歴史を感じる日本家屋で、土間があります。和室には完成した作品がずらりと並んでいました。
この頃はまだメニューの開発中だったので、お料理のイメージを膨らませながら、お皿を選んでいきました。その中でも目を引いたのが、リムのついた白いお皿でした。
様々な大きさ、リムの高さ、裏の足のつき方など参考にしながらこちらのイメージを伝え、
今の「直径28センチ・足なし」の白色リム皿の制作をお願いしました。
想像をはるかに上回る難しさ
実は最初にお皿の相談をした時から「とても難しい」と、Restaurant溪の座席数にあった量を用意できるか心配されていました。
焼き物をよく知らない人間からすると「そうはいっても大丈夫なんじゃないか」と思っていたのですが、想像はるかに上回る難しさで、立川さんもレストラン責任者の岡崎も完成を半ば諦めかけるほどでした。
『直径28センチ、裏に足をつけず、リムを立たせて焼く』
文字にすると簡単ですが、釉薬のガラス質と土の部分では窯の中での接地面で温度の違いが起こるため、とても割れやすく、実際に「焼いてみたところ割れてしまった」とのご連絡が二度ほどあり、困難を極めておりました。
もう間に合わない、無理かもしれないと思っていたところ、オープン3日前に立川さんに納品いただいた時の感動は、今でも忘れられない思い出です。
シャープな造形と手仕事の痕跡
完成したリム皿は少し灰色かかった乳白色で、ところどころにある濃い灰色の部分は釉薬を掛ける際に手で持つことによってできた指の跡です。「本来ならば跡は付けずに綺麗にするのでしょうが、あえて残し、どのように作ったかが追体験できるようなものが好きで」と立川さん。
縁の角を立たせた緊張感のある造形と、偶然が生み出した模様のバランスが、手仕事ならではの味わいを生み出しています。
どんなお料理にも合う器です。Restaurant渓で、ぜひ料理が盛りつけられた時の佇まいも楽しんでください。
(文:企画担当 西澤 佑奈)
→Vol.10は2/9公開予定です。お楽しみに!