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信州の静かな里山 長野県 鹿教湯温泉 斎藤ホテル

お知らせ

【新レストラン連載コラム⑥】メインのお肉に悩む日々

2023/12/15

Restaurant渓で提供している鹿肉料理。

オープン1周年を迎えた「Restaurant渓」に込めた思いを紹介するシリーズ、第6回目です。今回は、コースのメイン料理で使う「鹿肉」についてお話したいと思います。

 

コース全体のバランスで頭を悩ませる

なんといっても信州を代表するお肉といえば、リンゴで育った「信州牛」です。食感や味もかなりレベルが高く、安定して仕入れることができます。

 

そこで、信州牛の各部位の試食をしながらメイン料理の検討を重ねました。

 

しかし、です。かなりレベルの高い牛肉でも、コース全体のメインとして食してみるとなんとなくバランスが悪い。野菜を中心とした繊細な料理が続いたところに、突然マッチョなお肉が登場すると、全体のバランスを崩してしまうのです。牛肉自体はとても美味しいので合格点に達しているのですが、もっとRestaurant渓のコースに合った、バランスの良い素材はないかと模索することにしました。

 

そこで、かねてから考えていた鹿肉も同時並行で試食を重ねてみました。

 

鹿教湯温泉は、鹿が文殊様に化身してお湯のありかを教えてくれたという伝説をもつ温泉場です。「鹿肉を食すのはいかがなものか」という地元長老の意見もありました。そこで、文殊堂を管理する天龍寺の和尚様に相談することにしました。和尚様は「鹿と一体になることで供養される。気になさらないで食しましょう」というお言葉を授けてくださいました。

 

近年山で増えすぎた鹿は、畑の作物を荒らしたり植林した苗木の芽を食べてしまったりと、食害が問題となっていました。環境保全に寄与し、ジビエ食材としても注目され、脂身が少なく健康にも良いことから、メイン料理とするには最適のタイミングでもありました。

 

鹿肉の質を追求する

ただ、鹿肉をメイン料理で使うには2つの大きな壁を越えなくてはなりませんでした。

 

一つは必要量を入手できるかということ。信州では鹿は飼育されていないため、猟に頼ることになります。そのため、流通量にばらつきがあり、ほしい時に必要な量を安定して入手することができないという欠点があります。

 

そして、もう一つは野生ならではの品質のばらつきです。

 

私は子供のころから鹿肉を食べてきました。地元の猟師さんから分けてもらい、母がいろいろな手法を使って獣臭を抜き、料理を工夫してくれました。鹿肉には、まったく獣臭のしない感嘆符がつくような美味しいお肉から、もう臭くて臭くてとてもじゃないけれど食せない肉まであります。品質の良くない肉は、どんなに料理で工夫をしても最後に少しだけ口の中に獣臭が残ってしまうのです。私自身はそのかすかな獣臭がどうしても気になってしまい、どちらかというと鹿肉は苦手な部類でした。

 

猟師さんいわく、臭いの原因は猟の方法やその後の管理方法にあって、そういったポイントが押さえられていれば全く臭みのない良質のお肉になるのだとか。適切な場所に銃弾を当てて、直後にしっかりとした血抜きをして管理することが必要なのですが、これには大変手間がかかるので、猟師さんもそこまでの管理はなかなか難しいようです。

 

地元の仕入れ業者さんを数件当たりましたが、2つのポイントを押さえて良質な鹿肉を常時提供してくれる業者さんには残念ながら出会えませんでした。

 

レストランオープンまであと2か月というタイミングで、実はメイン料理の素材が決まってなかったのです。かなり焦りました。

 

奇跡的な鹿肉との出会い

獲物を狙う猟師。

 

最後は長野県庁を頼り、長野県のネットワークのなかから、中信地方のとある業者さんを紹介してもらいました。

最初はあまり期待しないで、その業者さんから仕入れをした肉を試食したところ、これがなんと、これまでの鹿肉のイメージを覆すようなお肉の味でした。まったく臭くないのです。牛肉と食べ比べてみると、むしろ牛肉のほうに獣臭を感じるくらいでした。しかも私たちの求める量をしっかりと安定供給していただけるとのこと。「これなら行ける‼」と手ごたえを感じて、この鹿肉一本でいくことにしました。

 

この鹿肉の品質を保つためには、並々ならぬ努力と経験によって、猟の技術から肉の解体方法、保存法まで一貫した仕組みが構築されています。聞けば聞くほど他で真似のできない仕組みです。とにかく私たちにとっては奇跡のような邂逅でした。

 

皆様の中にも、鹿肉を苦手とされる方がおいでになるかと思います。そういった方にこそ、ぜひRestaurant渓の鹿肉を試していただきたいです。これまでの鹿肉のイメージがきっと覆されることを保証します。

 

→Vol.7は12/29公開予定です。お楽しみに!