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信州の静かな里山 長野県 鹿教湯温泉 斎藤ホテル

お知らせ

斎藤コラム

  • 温泉プールに込められた「先見の明」

    2024/10/01

    効率の良い投資よりも大切にしたかった想い

    先代である父が現在の建物をたてるときに、お客様の健康づくりのためにはしっかりとした設備が必要という考えから、本格的な25mの温泉プールを作ることを決めました。プールを備えるホテルは数多いけど、年間を通して利用できる屋内の本格的な温泉プールは国内ではほとんど聞いたことがありません。

     

    この建物の建設を計画したころはバブルの絶頂期でした。プールは維持費がかかり直接の収益を生みません。そのためお金を貸しだす銀行は、プールをやめて大きな宴会場をつくる計画に変更するようにアドバイスをしていたようです。大きな宴会場はホテルにとって一番の収益源。効率のよい設備投資という観点からすると、もっともなアドバイスでした。

     

    しかし、父はそれに断固として反対。銀行のアドバイスにもかかわらず、なかば強引にプールを建設しました。それは、「お客様の健康づくりのお手伝いをしたい」という想いが強かったためだと聞いています。

     

     

    高齢者はプールを使わない!?

    プール建設には、もう一つ懸念がありました。それは、プールを利用するのは若者が中心で、斎藤ホテルの顧客である多くの高齢者の方は水着を着てプールを利用するわけがないという当時の常識でした。今では考えられないけれど、プールは若者や子供が利用するものであるとい考え方が一般的だったのです。

     

    ところが、その当時、鹿教湯温泉の「健康の里づくり」アドバイザーだった東京大学の宮下充正教授は違う考えをお持ちでした。

     

    「将来日本は超高齢化社会を迎える。そのときに一番必要なのは高齢者が健康でいること。そのためには運動が欠かせない。ひざや腰に持病を抱えている高齢者が運動するにはプールが最適であり、高齢者が当たり前のようにプールを使う時代が必ず来る」。

     

    さらに教授からは「プールは泳ぐだけのものではない。水中を歩くことは非常に有用な運動効果をもたらす」という知見もいただき、力強い後押しを得ました。

     

    そういった経緯で、心配する銀行の反対を押し切って建設したのが、泳ぐことも歩くこともできる現在の斎藤ホテルの25m温泉プールです。

     

    宮下教授が予見したとおり、今では老若男女問わず思い思いに温泉プールを楽しむお客様の姿を見ることができます。プールの中で歩いたり、エアロビクスをしたり、浮力を利用してリラクゼーションをしたり。もちろん、本格的に泳いてトレーニングする方もいらっしゃいます。高齢の方や身体の不自由な方でも、楽しんでプールを利用している姿をみると、この温泉プールがあって本当によかったと思います。

     

    少しの疲れは温泉プールで積極的休養を

    「ちょっと疲れたな~」と思いながら斎藤ホテルに宿泊されるとき、ゆっくり休むことも必要ですが、少しだけ頑張って、15分だけでもプールで歩いたり泳いだりすることを強くお勧めします。

     

    なぜなら、現代人の疲れはストレスなどにより精神的に緊張して身体がこわばっていることが原因の場合が多く、少しの運動で血流がよくなり、かえって疲れがとれるケースが多いからです。これは「積極的休養」ともいわれています。

     

    温泉100%のプールは、言い換えれば「巨大なお風呂」。それも、温かいお湯の中で動きまわる楽しさを味わえるお風呂です。通年で31℃に保たれ、冬は温かく、夏はヒヤッとしない程度の体に優しい温度なのも温泉100%プールの魅力です。

     

    宿泊のお客様は無料でお使いいただけます。水着は貸し出し(有料)もしていますので、水着をお持ちでない場合はお声がけください。せっかく温泉に来たのだから、普通のお風呂だけで楽しむだけではもったいない。お客様に健康になってほしいとの強い願いから建設された25mの温泉プールを、ぜひとも利用してみてください。

     

  • 【新レストラン連載コラム⑬】ふたりのシェフ

    2024/09/09

    「Restaurant溪」をオープンして3年が経ちました。多くのお客様に足を運んでいただいており、感謝の念に堪えません。そのRestaurant溪について、みなさまから頂戴する質問でいちばん多いのは「シェフはどなたですか?」というものです。

     

    地元と斎藤ホテルを知り尽くしたふたりのシェフ

    笹川高人シェフ

    斎藤隆弘シェフ

     

    Restaurant溪のシェフは笹川高人(64歳)と斎藤隆弘(40歳)の2名です。

     

    笹川は斎藤ホテルがオープンした時から厨房のリーダーを務め、現在のような斎藤ホテルのブッフェ・レストランを創ってきた人物です。新潟県と長野県の県境に位置する妙高の出身で、旅館業を営む家庭で育ちました。社会人になって洋食の料理人として研鑽を積み、斎藤ホテルに入社。現在は和・洋・中華すべての料理をこなしながら料理長として活躍しています。

     

    当ホテルは連泊される方が珍しくないので、お客様を飽きさせないためにメニューが毎日変わります。数多くのメニューを考案し、仕入れ、調理をしていくという、さまざまな要素が絡みあう複雑な過程を回していくには、かなりの経験が必要になります。そういった日々の業務に加え、後輩の育成も大事な仕事です。並大抵の人では務まりません。品質に厳しく、頑固で、それでいて思いやりとリーダシップを持った、絵にかいたような職人さんが笹川です。

     

    斎藤は、斎藤ホテルに入社して笹川のもとで修業を重ねてきました(私と同じ姓ですが親戚ではありません) 。地元で生まれ、地元で育った生粋の“鹿教湯人” の斎藤は、地元の食文化をそのまま背負ってきた調理人です。穏やかでいながらチャレンジ精神が旺盛で、新しい料理づくりに対する意欲には目をみはります。地元の人的ネットワークがあり、野菜の生産者や食材の情報をいち早く仕入れて、メニューに反映するセンスの持ち主でもあります。

     

    自分たちの強みは何だろう?

    Restaurant溪のようなレストランは、ある程度修業を積んだ名のあるシェフを召喚し、そのシェフを中心として構成するのが定石です。

     

    笹川と斎藤は、技術力はあるものの名のあるレストランで修業してきたわけではありません。なので、サービスや企画担当を含めたチーム全体で戦うことにしました。斎藤ホテルの経営理念である「もんじゅ」の考え方です。もんじゅ、すなわち文殊は智慧をつかさどる菩薩。鹿教湯温泉にある文殊堂にちなんでいます。地域の文化を大切にするとともに、智慧を出し合って世の中の幸せを形作っていくという考え方です。

     

    都内のレストランと戦うためには、自分たちの強みをしっかりと認識して、それを武器としてチーム力を高めていくのが私たちにできること――そう心を定めました。

     

    強みはなんといっても「信州に居ること」。すなわち食材の生産者にいちばん近い存在であるということです。食材をすぐに入手できるだけでなく、生産者の声や情報もいち早くキャッチできます。

     

    たとえばRestaurant溪のこだわりのひとつである「ジャスト・イン・タイム」。朝どれの野菜をその日に提供することをモットーにしています。都内の三ツ星レストランでもなかなか実現が大変なことですが、ここではわりと簡単にできます。
    そして、そういった情報を集めるには、生産者や卸などとの日頃のネットワークやコミュニケーションが大切で、その点は地元で生活する者の大きな強みとなります。

     

    チームの力で新しい挑戦に踏み出す

    試食会の様子。真剣勝負にピリッとした空気が流れる。

    笹川と斎藤は、既存店での経験こそ少ないものの、毎日変化するブッフェで鍛えられているので、こだわりなく柔軟にメニューを考えることができます。しかし、コース料理のメニュー開発の経験はいかんせん少ない。

     

    そこで、外部の力を借りることとしました。都内の開発チームにお願いして1年間、徹底してメニューを研究してきました。県内で食材を探して吟味し、調理してコースとして組み立てていく。そして、定期的に開発チームで試食をして方向性を確認していく。この繰り返しです。

     

    素材が良いのは当たり前。調理でその価値をいかに高めていくか? 盛り付けはミリ単位で修正。器を吟味し、体験の要素を付加していく。当然、ワインとの相性も確認していきます。

    この試食会は、斎藤ホテルとしては珍しく、ヒリヒリとした緊張感のなかで進められました。試食チームには若手もいます。ベテランの笹川や斎藤の料理に意見をすることはなかなか勇気がいることですが、めげずにバチバチと料理の感想や意見をぶつけます。外部アドバイザーからも遠慮のない意見が出て、本当に火花が散っているようでした。緊張感で胃がキリキリするような場です。

     

    悩み抜いてたどり着いた境地

     

    お客様に出して大丈夫だと心の底から確信したのは、ぎりぎり最後の試食会でした。それまで試行錯誤を繰り返したものの完成にほど遠く、もう本当にどうなることかと思い悩みました。皆で「これはいける‼」と確信したとき、それまでの道のりの険しさ、果てしなさが思い出され、チーム全体で感極まってしまうシーンもありました。料理の内容、構成、味、ワインとの相性など、これ以上のもなはないと自信が持てる仕上がりで、開業を迎えることとなりました。

     

    オープン3年目の現在も、笹川・斎藤の創意工夫により、さらに信州を楽しんでもらえるようなメニューに磨きがかかっています。Restaurant溪でお食事をされたら、厨房をそっと覗いてみてください。2人のシェフが心を込めて料理している姿が見られると思います。

  • 斎藤ホテル発着の日帰りバスツアー「斎藤駕籠屋」

    2024/08/01

    「私たちの大好きな信州をもっと満喫してもらいたい!」という願いからはじめた日帰りバスツアーが「斎藤駕籠屋」です。最初のツアーは今から25年以上前の1996年にスタート。私はまだ30代。当時、一緒に経営していた従兄弟と2人で運転手となり、はじめました。

     

    行き先は上高地でした。皆様もご存じのように上高地までの道のりはバスがギリギリすれ違いできるくらいの狭い山道です。お客様を乗せてのバスの運転は緊張の連続で、特に急こう配、急カーブの旧釜トンネルで坂道発進をしなくてはいけないときは本当に泣きたくなりました。もしかしたらお客様も怖かったのではないかと思います。ただ、その険しい道を乗り越えて無事に着いた上高地の景色はすばらしく、まさに“神が降りる地”そのものでした。

     

    ツアーの人気が高まりバスが不足したものの、予算もなかったため、格安の中古バスを求めて静岡県の富士市まで従兄弟と2人でいったこともありました。男2人半日かけて赴き、良いバスを仕入れられた喜びもあり、帰りに富士急ハイランドでジェットコースターに乗って帰ったことも良い思い出です。ただ、格安で仕入れたバスはその後、故障続きで大変苦労させられました。

     

    その後も新車のバスを購入したり、運転手を増やしたりしながら徐々にご案内できる場所も増えて、今では信州の隅々、時には岐阜県や新潟県までご案内できるようになりました。

     

    今回はお客様の疑問やお問い合わせを参考にして、ツアーを100%楽しむコツをまとめてみました。

     

    ●ツアーの行き先をまめにチェック!

    多い時で週に5日、年間で100か所ほどの場所へご案内しています。
    ツアーの行き先は、信州をこの上なく愛するスタッフの「好きな場所」です。あちこちと信州を歩きまわり、地元の人に話を聞き、魅力を知り尽くしたスタッフが本当に気に入った場所へお客様をご案内するようにしています。加えて、参加者にはお足の不自由な方も多くいらっしゃいますので、トイレの場所や段差など入念に下見をして、参加者全員が楽しめる場所を厳選しています。
    2か月前までには行き先を決めて、斎藤ホテルのホームページでくわしく紹介していますので、気になるツアーを見逃さないよう、常にチェックしてみてください。

    千畳敷カールは約2万年前の氷河期につくられた雄大な風景と高山植物が堪能できます

     

    ●ツアー中は添乗員になんでも質問!

    斎藤ホテルの社員が、添乗員として皆様を安全に楽しくご案内しています。
    フロントやレストランのスタッフが添乗員として随行することもあります。添乗員は信州の歴史や文化、地理、風習、緊急時の対応などを勉強し、お客様を楽しませるように日々努力を重ねていますから、日頃から勉強していることを皆さまに知ってほしくて、ウズウズしています。おいしい食事場所や、ガイドブックに載っていない裏話など、喜んで話してくれること請け合いです。
    添乗員が随行する場合でも、現地では自由行動を基本としています。現地にて、気ままに観光をお楽しみください。
    *ツアーによっては添乗員が同行しない場合もあります。

     

    ●気になるツアーがあれば、すぐに予約を!

    行ってみたいツアーがあったら、早めにご予約ください。前日の17時までのご予約をお願いしていますが、人気のツアーはその前に定員に達してしまうことも。満席でお断りするのは大変忍びないのですが、バスの座席はどうしても限りがあります。なるべく早めのご予約をお勧めします。

     

    ●悪天候の場合は館内で温泉を満喫!

    台風や大雪など、悪天候によりツアーが中止となることがあります。
    自然にはどうやってもかないません。そういうときは、トレーニングルームやプールで身体を動かしたり、何度も温泉に入浴したり、温泉滞在を満喫ください。雨や雪を眺めながら温かい露天風呂に浸かって、のんびりするのもまた乙なものです。

     

    ●朝から丸一日、信州を満喫!

    ツアーのほとんどは、朝斎藤ホテルを出発して夕方に戻ります。信州を丸一日、存分に満喫してください。
    出発は朝の8時30分~9時の時間帯がほとんどです。出発時間が早いツアーは朝食時間を調整できますので、前日の夕食時にレストランスタッフに声をおかけください。
    バスは出発時間の20分ほど前にホテル玄関につきます。お席は自由席ですが、お足の悪い方や車いすの方などはあらかじめ前方の席をご用意させていただきます。
    現地到着までの時間は1時間~2時間30分ほどです。途中、トイレ休憩はこまめにとるようにしています。
    現地ではなるべく自由時間が多くなるようにスケジュールを組んでいます
    昼食は現地のレストランや食堂で自由に召し上がっていただくので、お好きなものをどうぞ。(あらかじめ昼食が決まっているツアーもあります)
    どこで食べればいいか分からないという場合は、スタッフや添乗員がお勧めのおいしい食堂やレストランがありますので、ぜひお気軽にお尋ねください。
    帰りは16時前後、暗くなる前に斎藤ホテルへ戻ります。

    迫力満点! 黒部ダムへのツアーもあります

     

    ●楽に、お得に信州を楽しむ!

    「ツアーは楽だけど、金額は本当に割安なの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃいます。「斎藤駕籠屋」のツアー料金はおひとり4000円~9000円程度で、自家用車の利用や、公共機関を乗り継ぐよりもお得な料金になるように設定しています。(目的地や昼食の有無によって変わります)
    ツアーに組み込まれていない現地の美術館などの入場料金、ロープウェイなどの乗り物料金は追加でかかる場合があります。

     

    ●お足の悪い方、車いすの方、心配ご無用!

    ほとんどのツアーは、お足の不自由な方や車いすの方でも参加できるように、段差の状況やトイレなどの下見を入念にして、計画されています。
    “ほとんど”と留保がつくのは、行先によってどうしても制約される場合があるからです。ご予約の時点で、スタッフにお尋ねください。

    山頂までひと息に行ける北八ヶ岳ロープウェイ。絶景と坪庭散策が楽しめます

     

     

    ●実は……!

    斎藤ホテルに宿泊していなくても、「斎藤駕籠屋」には参加できます。ご宿泊されない方や、他の宿泊施設にお泊りの方でも、あらかじめ斎藤ホテルへご予約いただければ大丈夫。あまり知られていないので、もし鹿教湯温泉や上田方面に行かれるご友人や知人の方がいらしたら、ご喧伝いただけるとありがたいです。

     

    ……鹿教湯温泉は信州のほぼ真ん中に位置しているので、片道1時間30分ほどで信州のほとんどの観光地へ行くことができます。2泊以上、できれば4泊、5泊して、斎藤ホテルを拠点にのんびりと信州の旅をお楽しみください。

  • 【新レストラン連載コラム⑫】20年越しの夢は続く~地元ワイナリーとのコラボレーション

    2024/07/01

    この7月11日・20日に、「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ) ワイナリー」とのコラボレーション企画を予定しています。

     

    ワイナリーとのコラボレーション企画は、私が長年思い描いていた夢でした。1回目は2023年に小諸市のマンズワイン小諸ワイナリーとタッグを組み、おかげさまでお客様からたいへん好評をいただきました。2回目となる今回は、斎藤ホテルと同じ上田市内にあるシャトー・メルシャン 椀子 ワイナリーとのコラボレーションです。

     

    上田市に世界レベルのワイナリーができた

    2003年にメルシャン株式会社がこの地でワイン用ブトウを栽培しワインを醸造する計画を発表したときから、このワインと地元の食事を鹿教湯温泉で楽しんでいただくことができれば良いなあ、と妄想を膨らませていました。

     

    椀子ワイナリーは、国産高級ワインブランドとして1970年に誕生した「シャトー・メルシャン」3つ目のワイナリーです。ワイン用ブドウの適地として選定されたのは上田市丸子地区陣場台地。ワイナリーの名は丸子町の古代名を冠しています。

     

    2006年には、私も所属していた鹿教湯温泉の青年部がワイン用ブトウの収穫とランチ体験のツアーを企画したこともありました。数年間、秋の収穫シーズンには同様のツアーを開催してきましたが、人手や予算の問題で、2010年以降は休止となりました。

     

    その間も椀子ワイナリーは製造努力により品質を向上させ、2011年には世界のトップワイナリー20に名前があがるようになりました。また醸造されるワインも日本のコンクールで毎年のように受賞するなど、世界品質のワインを生産し続けています。

     

    また、この上田地域周辺では毎年のようにワイナリーができて、品質の高いワインを生産する一大産地に育っています。

     

    高級ワインに引けを取らない料理がほしい

    ワインのつくり手は努力と競争でしのぎを削り、日々努力をかさねているのに対して、それに見合う料理の提供は追いついているとは言えない状況が続いていました。ワイン産業の急激な立ち上がりに比して、料理文化の構築が追いついていなかったのです。

     

    生産されるワインは高品質なものが多いため、料理やしつらえもそれに負けないクオリティが求められます。料理界に詳しい先輩によると、レストランで料理とワインを楽しむとなると値段は半分半分。料理は1万円を超えます。この地域で、この値段でワインと合う料理を出すレストランは存在していませんでした。

     

    椀子ワイナリーができたときに、将来はそういったレストランが鹿教湯にあったらいいなと思っていましたが、1万円を超える料理の提供は雲を掴むような、私には関係ない世界の話だと思い込んでいました。当時は他に優先する課題があって、とてもそんなことを考えている余裕もなかったのです。

     

    ピンチをチャンスに変えて夢を実現

    その後も、斎藤ホテルとして独自に椀子ワイナリーの収穫体験ツアーなどを行い、細々と関係を維持してきました。

     

    転機は2020年に始まったコロナ禍でした。もちろん経営は大きな打撃を受けましたが、同時に将来を考え、計画を練る時間を与えてくれました。コロナはいつか収束する。今こそその時に向けての投資のチャンスだと、勇気を振り絞り「Restaurant溪」を開業しました。

     

    今回のツアーは、斎藤駕籠屋のバスを利用します。お客様を上田駅から椀子ワイナリーへお連れしてワイナリーとブドウ畑を見学していただき、それからRestaurant溪でお食事を楽しんでいただく流れです。

     

    椀子ワイナリーでは、ブドウ畑や製造工場を工場長自ら案内してくれます。気候の特徴や品種、栽培方法、醸造方法などのレクチャーは、ワインについて全く知識のない方でも楽しめる内容になっています。数種類のワインの試飲もご用意しています。その後バスで移動し、Restaurant溪にて今回のために特別に組んだコースを味わっていただくディナータイムへ。ペアリングされるのはもちろん椀子ワイナリーで生産されたワインです。

     

    地元の素材を使った“信州フレンチ”とワインを、地元の景色と現代のしつらえのなかで楽しむ。まさに自分が思い描いていた夢を、お客様に体験していただけるようになりました。

     

    20年の構想が実ったツアーですので、多くの方に参加していただければ幸いです。

     

    *イベント詳細のお問い合わせ、お申し込みはお電話にてお願いいたします。電話0268-44-2211(受付時間9:30~18:00)
    *定員に達した場合はご容赦ください。次の機会をお待ちいただけますようお願い申し上げます。

  • 【新レストラン連載コラム⑪】器のこと~第2回 坪内真弓さんについて

    2024/06/05

     

    「信州産の器を使いたい」という思いから出合った2人と1組の作家さん、2回目にご紹介するのは坪内真弓さんです。

     

    信州の鎌倉「別所温泉」にある工房


    鹿教湯温泉からほど近い「信州の鎌倉」ともいわれる別所温泉に工房を構え、陶芸教室なども行っている作家さんです。身近な作家さんでありながら、知ったきっかけはSNSで偶然目にした器でした。

     

    坪内さんとコンタクトをとり、お話をするために上田市保野(ほや)にある工房を訪ねました。
    市街地の見慣れた景色の中を進み、メインの通りを少し外れたところに坪内さんの工房はありました。

     

    広々とした工房内には製作中の作品や色見本等が並び、どこか学校の美術室を思い出させるようでした。窓からは田園風景と別所温泉の山々が見え、近くには小川も流れ、季節によって様々な野鳥が顔をのぞかせるのどかな風景が広がります。

     

    作品棚の一角にはクマやウサギ、鳥など動物をモチーフにした可愛いらしい作品がずらっと並びます。一つ一つ手書きされたモチーフは絵本の世界から出てきたような愛らしさです。

     

    こちらの作品はコロナ禍以降にECショップで商品を購入する人が増えたことに注目し、一目見て印象に残るかわいらしいものをと考え制作を始めたそうです。

     

    坪内さんは様々な作風を持つと同時に、器などのクラフトの他に陶芸による立体造形作品も制作・出展しています。器とはまた異なる力強い作品を拝見した時は、全く違った印象にとても驚かされました。

     

    最初にお会いした時はこちらもまだメニュー開発の最中だったため、「Restaurant溪」のコンセプトをお伝えしていきました。食材はもちろん建材や設えに至るまで信州産にこだわる「信州のおもてなし」という思いがあること、そして坪内さんの作品の中にイメージする物が今回のコンセプトに近いものがあることをお伝えしてきながら制作が始まりました。

     

    森や山を感じさせる、2種類のお皿


    器から造形作品まで幅広い作風を持つ坪内さんに、2種類のフラットプレートを制作していただきました。

     

    一つ目は独特な肌感と模様のある器です。信楽の赤土釉薬を塗り、さらにその上から溶かした白土を薬藁で作った刷毛で薄く塗っているお皿です。釉薬のかかり方によって赤味の強弱と光沢感が生まれ、白土でできた刷毛目によって木の年輪のような美しい模様が生まれます。まるで森の大木を思い起こさせる作品です。

     

    もう一枚は先ほどとはうって変わって、模様の無い、漆黒のお皿です。黒い土の上から黒い釉薬を掛けて焼くことで深い黒と艶のあるお皿に仕上がります。落ち着いた輝きの黒さは月明りに照らされた鹿教湯の森や山を連想させます。ライトに照らされると銀色に輝き、使っていくうちにしっとりとした肌感となっていきます。

    この漆黒のお皿は焼いたときにできる「ピンホール」と呼ばれる穴が目立つため、いかにこれを少なくしていくか、どの程度までをよしとするか非常に悩まれたそうです。結果として4回焼成を重ねてようやく満足のいく出来になったとお話してくれました。

     

    どちらのお皿も試行錯誤を繰り返し、約1年かけて完成しました。こちら要望を出した「底面がフラット」で「28センチの平皿」というのは、先にご紹介した立川さん同様に難しさを感じていたそうです。燥段階でゆがみやひび割れが生じてしまうため1cm単位で細かな調整を繰り返すことで完成に至ったとのことでした。

     

    お話の最後に陶芸の魅力についてお伺いしました。
    「陶芸は窯に入れしたあとは火にゆだねる。自分の手から離れたところで完結するのが面白い」
    そう語る坪内さん。
    デザイン性と偶然性から生まれる自然のエネルギーと地の食材が合わさった一皿から、信州の物語を感じて頂けたらと思います。

     

    *「器のこと ~第1回 立川玄八さんのこと」はこちらから